財産管理等委任契約で不動産売却はできるか
財産管理等委任契約で不動産売却はできるか
移行型の任意後見契約で、財産管理等委任契約を合わせて行い、財産管理等委任契約の代理権目録に、不動産の処分に関する事項を入れてもらっても、包括的な条項があるのみで、登記の申請に関する条項が含まれていないし、物件の特定もできていないことから、公正証書と任意後見受任者(任意代理人)からの委任状では、登記はできない。(ちなみに、後見登記事項証明書には、財産管理等委任契約における代理権は記載されないので、後見登記事項証明書は当然代理権限証明情報とはならない。過去のブログ ⇒ 任意後見契約をした場合の後見登記事項証明書)
そもそも、不動産の処分ができるのは、委任者が判断能力を有していることが前提であり、司法書士としても、委任者の本人確認・意思確認が必要です。任意代理人のみで全ての手続きを終わらせることは不可能です。
cf. 任意後見契約の3類型
登記インターネット122号
問 公証役場において「委任契約及び任意後見契約公正証書」を作成しました。当該公正証書の「委任契約」の代理権目録には、「不動産その他の重要な財産に関する賃貸借契約、売買契約その他の管理処分に関する事項」の条項があり、財産権の管理又は処分が包括的に委任されていますが、不動産登記の申請については契約の内容とされていません。
不動産登記の申請において、上記公正証書とともに任意後見監督人選任前の任意後見人(以下「任意後見受任者」という。)が記名押印した委任状を代理権限証明情報として提供して、所有権の移転の登記を申請することは可能でしょうか。
⇓
答 財産の管理又は処分について包括的に委任することを定めていたとしても、不動産登記の申請が委任事項とされていないので、上記公正証書を代理権限証明情報とすることはできず、判断能力を十分に有している委任者本人が記名押印した委任状を代理権限証明情報として提供する必要があります。
【説明】
「委任契約及び任意後見契約公正証書」等を代理権限証明情報として取り扱うことの可否について
本件は、所有権の移転の登記の添付情報として、財産の管理又は処分を包括的に委任することを「委任契約」の内容としたいわゆる移行型の公正証書とともに任意後見受任者が記名押印した委任状を代理権限証明情報として提供して申請がされた場合の受否について照会がされたものです。
これは、後見登記等に関する法律10条の登記事項証明書において、任意後見人の代理権の範囲に財産の管理又は処分が含まれている場合には、その管理又は処分に係る不動産の登記申請についても代理権が及ぶことから、当該代理権の範囲に不動産の登記の対象となる物件が特定されていないときであっても、当該登記事項証明書を不動産登記法35条1項5号(現行法令では不動産登記令7条1項2号)の代理人の権限を証する書面として取り扱うことができるものとされているため(平成15年2月27日付け法務省民二第601号民事局民事第二課長通知)、財産の管理又は処分を包括的に委任することを「委任契約」の内容としたいわゆる移行型の公正証書を提供することにより、同様の取扱いができないか疑義が生じたものと思われますが、そもそも任意後見人の権限と任意後見受任者の権限は大きく異なるため、その点を整理して考える必要があります。
まず、任意後見契約の効力発生後の任意後見人は、①任意後見監督人の直接の監督及び任意後見監督人を通じた家庭裁判所の間接的な監督を受けていることから、代理権限の濫用のおそれが少なく、任意後見人と委任者との関係は、法定後見人と被後見人との関係と同視することができること、また、②任意後見人による登記の申請は、精神上の障害により委任者の判断能力が不十分な状況となった時点で行われ、その時点において本人が登記の対象となる物件を特定することは困難であり、包括委任状を使用する必要性も認められることから、登記実務において、任意後見人の代理権の範囲に財産の管理又は処分が含まれていることが登記事項証明書で確認できる場合は、当該証明書を代理人の権限を証する書面として取り扱って差し支えないとされたものと考えられます。
これと比較して、任意後見契約の効力発生前の任意後見受任者と委任者との関係は、「委任契約」の代理権目録に包括的に財産の管理又は処分が含まれていたとしても、単に任意代理の委任契約を締結している段階に過ぎません。本件委任契約は、公正証書によりされており、公正証書は公証人において委任者に読み聞かせをした上、当該委任者が公正証書の記載内容について承認するとともに、署名押印しており、委任者の委任内容の真実性が担保されていますが、代理権目録には「財産の管理又は処分」に関する包括的な条項があるのみで、登記の申請に関する条項が含まれていないことから、具体的にどの範囲までを委任内容としているのか明確ではありませんので、登記官において不動産登記申請に係る代理権限の有無を認定することは困難であり、また、任意後見監督人等の監督の下に職務を行う任意後見人の権限とは大きく異なることから、代理権が不動産登記申請にまで当然に及ぶとは判断できないものと考えます。
したがって、本件の場合については、判断能力を十分に有している委任者本人が記名押印した委任状を代理権限証明情報として提供しなければ、受理することはできないものと考えます。
以下の登研は、単体の委任契約公正証書で、かつ、物件の特定もできている事例なのか謎です。
⇓
委任契約に係る公正証書と代理人の権限を証する情報(登研741号)
要旨 委任契約に係る委任事務の範囲について、不動産の管理及び処分に関する代理権を付与することが明らかにされている委任契約書が公正証書により作成されているときは、これを登記の申請の代理人の権限を証する情報として取り扱って差し支えない。
問 委任契約における委任事務の範囲について、受任者に代理権を付与する事項として「不動産の保存、管理、変更及び処分に関する事項」及び「登記の申請に関する事項」とする委任契約書が公正証書で作成されている場合(電磁的記録の場合を含む。)、受任者が処分した不動産について所有権の移転登記を申請する際には、当該公正証書を代理人の権限を証する情報として取り扱って差し支えないと考えますが、いかがでしょうか。
答 御意見のとおりと考えます。
※ 本ブログは私見を含んでおりますのでお問い合わせは一切受け付けません。
プラスカフェ 相続
京都市左京区 設立
司法書士 山森貴幸