社員の出資の払戻し
社員の出資の払戻し
出資の払戻しは、社員がその地位を維持したまま会社財産の払戻しを受ける(退社を伴わない)点、払戻しの対象が社員がした出資に限られている点で、持分の払戻しとは異なる。
社員は、当該社員の出資価額を減少する定款変更を経ることで、すでに出資として払い込んだ金銭等の払戻しを請求することができる。定款変更にあたっては原則として総社員の同意(会637)が必要となる。
出資の払戻しは利益剰余金からは行うことはできない。(会社計算規則32Ⅱ但書)
損失の処理として資本剰余金を利益剰余金に振り替えた部分についても、出資の払戻しの対象とはならない。
出資の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(出資払戻額)が、出資の払戻しを請求をした日における「剰余金額」又は定款変更による出資価額の減少額のいずれか少ない額を超えるときは、出資の払戻しをすることができない(会632Ⅱ)。
ここでの「剰余金額」は、持分の払戻しとは異なり、①②のいずれか少ない額をいう。
① 出資の払戻しの日における利益剰余金と資本剰余金の合計額
② 当該社員の出資につき資本剰余金に計上されている額
たとえば、資本金30、払戻し時の利益剰余金20とし、
Aの出資額:20
(内訳:資本金10、資本剰余金10)
Bの出資額:30
(内訳:資本金20、資本剰余金10)
とし、Aがその出資額のうち15について、出資の払戻しを請求した場合で、Aの出資額を15だけ減少させる旨の定款変更がされたものとする。
①は、20+10+10=40
②は、10(Aに係る資本剰余金)
なので、Aに対する出資の払戻しの限度額は10となり、Aからの請求を拒否することができる。
ただし、資本金と資本剰余金の具体的な内訳は変更可能であるから、Aに帰属する資本金及び資本剰余金の内訳を振り替えることで、15の払戻しが可能となる。
Aの出資額:20
(内訳:資本金5、資本剰余金15)
Bの出資額:30
(内訳:資本金25、資本剰余金5)
各社員が払い込んだ出資に関しては、資本金の額の総額に変更がない限り、資本金と資本剰余金の内訳を変更することができる(立案担当省令175頁)。単に会計上の処理であることから、その意思決定は、業務執行社員の過半数の決定で足りると考えることもできるが、資本剰余金が資本金に振り替わった社員(B)については、出資の払戻しの限度額という、まさに持分の内容を構成する権利にも影響するものであるから、別途、振り替わる社員(B)の個別の同意が必要と考えるべきである。(詳解 P176)
さらに、出資の払戻しに伴う資本金の額の減少も許容されていることから(会626Ⅰ)、資本金の額を減少させることで、限度額を増加させることもできる。
ただし、この場合において減少できる資本金の額は、出資払戻額(15)から、出資の払戻しをする日における出資の払戻しを受ける社員(A)に係る資本剰余金の額(10)を控除した額(5)を限度とする(会626Ⅱの剰余金額とは、当該社員の出資につき資本剰余金に計上されている額とされている)。
このことは逆にいうと、出資の払戻しを受ける社員に係る資本剰余金が不足する場合に限って、資本金の額を減少できることを意味しており、もし、Aに係る資本剰余金が20であれば、資本金の額は減少できないことになる。
なお、当然のことながら、資本金の額を減少させる=債権者保護手続が必要となる(会627)。
また、持分の払戻しにおける税務上の取扱いは、出資の払戻しについても基本的に妥当するが、現金が払い戻される限りにおいては、出資の額を限度に払い戻される以上、みなし配当は原則として生じない。他方、現物資産をもって払い戻す場合において、当該資産に含み益があるときには、当該含み益部分についてはみなし配当となると考えられる。(詳解 P119-122)
第624条 社員は、持分会社に対し、既に出資として払込み又は給付をした金銭等の払戻し(出資の払戻し)を請求することができる。この場合において、当該金銭等が金銭以外の財産であるときは、当該財産の価額に相当する金銭の払戻しを請求することを妨げない。
(定款の変更)
第637条 持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。
会社計算規則(利益剰余金の額)
第32条2項 持分会社の利益剰余金の額は、第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が減少するものとする。ただし、出資の払戻しにより払い戻した財産の帳簿価額に相当する額は、利益剰余金の額からは控除しないものとする。
第四款 出資の払戻しに関する特則
(出資の払戻しの制限)
第632条 第624条第1項の規定にかかわらず、合同会社の社員は、定款を変更してその出資の価額を減少する場合を除き、同項前段の規定による請求をすることができない。
2 合同会社が出資の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(出資払戻額)が、第624条第1項前段の規定による請求をした日における剰余金額(第626条第1項の資本金の額の減少をした場合にあっては、その減少をした後の剰余金額)又は前項の出資の価額を減少した額のいずれか少ない額を超える場合には、当該出資の払戻しをすることができない。この場合においては、合同会社は、第624条第1項前段の規定による請求を拒むことができる。
(出資の払戻し又は持分の払戻しを行う場合の資本金の額の減少)
第626条 合同会社は、第620条第1項の場合のほか、出資の払戻し又は持分の払戻しのために、その資本金の額を減少することができる。
2 前項の規定により出資の払戻しのために減少する資本金の額は、第632条第2項に規定する出資払戻額から出資の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない。
3 第1項の規定により持分の払戻しのために減少する資本金の額は、第635条第1項に規定する持分払戻額から持分の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない。
4 前2項に規定する「剰余金額」とは、第一号に掲げる額から第二号から第四号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう。
一 資産の額
二 負債の額
三 資本金の額
四 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
(債権者の異議)
第627条 合同会社が資本金の額を減少する場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、資本金の額の減少について異議を述べることができる。
cf. 社員の退社に伴う持分の払戻し
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