信託の対象財産と、遺言との併用
信託の対象財産と、遺言との併用
民事信託は、信託財産を限定して行うものなので、全財産を信託することは現実的に不可能。
少なくとも、年金受給権は信託財産とすることができないので、年金収入は、信託口口座へ入金してもらうこともできず、委託者個人口座へ入金される。
委託者が年金収入で得た金銭を追加信託することも可能だが、信託の追加については信託法に明文の規定が無く、学説上、その法的性質は、新たな信託設定と信託の併合を同時に行うものと解されているため、委託者が意思能力を失えば、追加信託を行うことができなくなる。
信託財産としていない委託者の財産は通常の相続財産となるので、遺産分割ではなく承継先を決めておきたい場合は、遺言書を作成することになる。
<信託財産とすることができるか問題となるもの>
① 預貯金債権
一般に譲渡禁止特約が付されているので、そのまま信託財産とすることはできない。
委託者が預貯金を現金化して、金銭を信託することになる。
cf. 債権譲渡の対抗要件
預貯金債権に譲渡制限特約が付されている場合には、それが債権譲渡されたとしても、悪意又は重過失の第三者との関係では譲渡自体が無効となる。
② 農地(農地法3Ⅱ③により、不可)
③ 年金受給権(一身専属権なので、不可)
④ 債務
信託契約に定めれば、信託設定と同時に受託者に承継させることが可能。
まず、委託者から受託者へ債務引受をし、かつ、信託契約においてその債務を信託財産責任負担債務とする旨の定めをしなければならない。なお、信託財産責任負担債務については、信託財産のみならず、受託者の固有財産も責任財産となる(信託法21Ⅱ反対解釈)ので、注意。
信託法(信託財産責任負担債務の範囲)
第21条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。
一 受益債権
二 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利
三 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの
四 第103条第1項又は第2項の規定による受益権取得請求権
五 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利
(省略)
2 信託財産責任負担債務のうち次に掲げる権利に係る債務について、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。
一 受益債権
(省略)
なお、第21条1項2号がよく分からないところですが、例としては、賃貸不動産が信託財産となる場合の賃借人への敷金返還債務(敷金返還債務は、民法605の2Ⅳにより、賃貸不動産の譲渡により当然に移転する。)が挙げられ、その返還の原資となる額の金銭の信託も必要となる。
民法
(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条(登記)、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。2(省略)
3 第1項の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第1項の規定により賃貸人たる地位が譲受人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人が承継する。
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司法書士 山森貴幸