社員の退社に伴う持分の払戻し
社員の退社に伴う持分の払戻し
業務執行社員 A、B
代表社員 B
法定退社事由である総社員の同意によって、Aが退社することとし、持分の払戻しを行う。
持分の払戻しにあたっては、まず財産目録及び貸借対照表を作成し、持分の払戻しに係る計算を退社の時を基準に行う(会611Ⅱ)。なお、財産目録及び貸借対照表に記載すべき会社財産の評価方法については、営業の存続を前提とする価額(営業価額)によるとするのが通説とされている。
<ケース1、登研864 P21>
Aの出資額:150
(内訳:資本金100、資本剰余金50)
Bの出資額:200
(内訳:資本金100、資本剰余金100)
とし、Aに対する持分払戻額を150とする。
各社員の出資につき計上している資本金と資本剰余金の具体的な内訳は、会社全体として資本金の額の総額を変更しない限り変更可能であることから、Aの資本金100をBの資本金に振り替え、Bの資本剰余金100をAの資本剰余金に振り替える。
Aの出資額:150
(内訳:資本金0、資本剰余金150)
Bの出資額:200
(内訳:資本金200、資本剰余金0)
そして、Aに対して資本剰余金150を払い戻す方法を採れば、資本金の額に変動はなく、債権者保護手続は不要となる。
つまり、退社社員の出資額を資本剰余金のみで賄いうる場合は、資本剰余金から払い戻すことで、債権者保護手続を回避することができる。(詳解 P108)
<ケース2、詳解 P111>
資本金30、利益剰余金20
Aの出資額:20
(内訳:資本金10、資本剰余金10)
Bの出資額:30
(内訳:資本金20、資本剰余金10)
とし、Aに対する持分払戻額を30とする。
持分払戻額30は、剰余金額(資本剰余金と利益剰余金の合計額)である40以下であるため、会社法635条による債権者保護手続は不要であり、債権者保護手続の要否は、資本金の額を減少させるかどうかによって決する(会627)こととなる。
Aの出資額20のうち10は資本金として計上されているため、これを持分の払戻しに伴って減少させる場合には、債権者保護手続が必要となるが、Aの資本金10を資本剰余金に振り替えることで、債権者保護手続なく持分の払戻しが可能となる。
したがって、持分の払戻しに伴い、資本金の額に変動はなく、資本剰余金の額を20減少させることができることとなる。
また、
持分払戻額 > 資本金及び資本剰余金の場合 ⇒ 差額を利益剰余金から控除
持分払戻額 < 資本金及び資本剰余金の場合 ⇒ 差額分を利益剰余金に増額
なので、本ケースでは、10を利益剰余金から控除する。
ちなみに、持分の払戻しがみなし配当として課税対象となる場合があるので注意が必要。
最後に、持分の払戻しのために資本金の額を減少することができるが、その減少額は、当該社員の出資につき計上されていた資本金の額を超えてはならない(会626Ⅲ・Ⅳ、会計規164③ロ・32Ⅱ②、恐ろしく難解だが、計算するとこのとおりとなる。ハンドブックP675)。
会社法
第626条 合同会社は、第620条第1項の場合のほか、出資の払戻し又は持分の払戻しのために、その資本金の額を減少することができる。
第627条 合同会社が資本金の額を減少する場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、資本金の額の減少について異議を述べることができる。
2 前項に規定する場合には、合同会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第二号の期間は、1箇月を下ることができない。
一 当該資本金の額の減少の内容
二 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
会社法
第626条
3 第1項の規定により持分の払戻しのために減少する資本金の額は、第635条第1項に規定する持分払戻額から持分の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない。
4 前2項に規定する「剰余金額」とは、第一号に掲げる額から第二号から第四号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう。
一 資産の額
二 負債の額
三 資本金の額
四 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
会社計算規則(剰余金額)
第164条 法第626条第4項第四号に規定する法務省令で定める合計額は、第一号に掲げる額から第二号及び第三号に掲げる額の合計額を減じて得た額とする。
一 法第626条第4項第一号に掲げる額(資産の額)
二 法第626条第4項第二号(負債の額)及び第三号(資本金の額)に掲げる額の合計額
三 次のイからホまでに掲げる場合における当該イからホまでに定める額
ロ 法第626条第3項に規定する剰余金額を算定する場合 次に掲げる額の合計額
(1) 当該社員の出資につき資本剰余金に計上されている額
(2) 第32条第2項第二号イに掲げる額から同号ロに掲げる額を減じて得た額
ホ 法第635条第1項、第2項第一号及び第636条第2項に規定する剰余金額を算定する場合 資本剰余金の額及び利益剰余金の額の合計額
第五款 退社に伴う持分の払戻しに関する特則
会社法(債権者の異議)
第635条 合同会社が持分の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(持分払戻額)が当該持分の払戻しをする日における剰余金額を超える場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、持分の払戻しについて異議を述べることができる。
2 前項に規定する場合には、合同会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第二号の期間は、1箇月(持分払戻額が当該合同会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額を超える場合にあっては、2箇月)を下ることができない。
一 当該剰余金額を超える持分の払戻しの内容
二 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
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司法書士 山森貴幸